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雨上がりの空に…

2019.11.01(04:51) 377


桜井美雪(みゆき)は、部屋で独り想い出に耽っていた。

姉の一美(かずみ)が他界してから9年の歳月が過ぎた。

今日は美雪の誕生日で、姉の一美が他界した年齢の29才に追い付いてしまった。

複雑な思いを抱きながらアルバムを開く美雪。

一美の長く艶のある髪は写真の中でも綺麗だった。

姉の綺麗な髪が羨ましかった10代の頃の美雪は、姉に髪の洗いかたや髪を痛めないブローの仕方を教えてもらっていた。

姉のように綺麗になった現在の美雪の髪は、髪を大事にしていた姉の意思を引き継ぐように毛先まで綺麗にのびていた。

その髪も姉の歳と共に、当時の姉を越えていこうとしていた。

『お姉ちゃん、今日でお姉ちゃんの歳と同じになっちゃったよ…。ほら、髪もお姉ちゃんみたいに綺麗にのびたんだよ』

美雪は姉の写真を見つめ、髪を指に絡めて横に広げて見せた。


両親を早くに亡くした一美と美雪。

美雪が9才で一美は18才の時だった。

9つ離れた姉妹は父方の親戚の所へ行くことになった。

一年ほど片身の狭い思いをした生活から抜け出せたのが、一美が19才になったときだった。

母方の親戚の叔母さんに頼み込んで、アパートを借りる保証人になってもらった。

それからは、美雪の母親代わりとなった一美。

優しい姉であり、母である一美を慕う美雪。

一美には齊藤孝という恋人がいた。

高校生から付き合いはじめて一美が他界するまで恋人のままだった。

あれから9年過ぎた今でも独身を貫いている孝。

一美と孝は結婚の約束をしていたが、『美雪が成人するまで待っていてほしい』という一美の気持ちを受け入れていた孝。

しかし美雪が二十歳になる直前で一美はバイクの単独事故で他界してしまった。

一美(かずみ)が魂となって四十九日の間、病院にいたときに一美(かずみ)の魂と話ができる中学生の女の子の一美(ひとみ)に託された一美の恋人、孝への思いを一美(ひとみ)から聞いた孝。

亡くなってから四十九日目の天国へ上る最後の日のことだった。

『アタシがこの世から消える今日から一年間だけでいいから、アタシだけを想っていてほしい、アタシだけを愛していてほしいの。
一年過ぎたらアタシの事は心の隅にしまっておいて。
この先、孝を好きになる人もいるはずだから…孝もその人を好きになったら幸せになってほしいから…。
だから、一年間だけでいいの…。
アタシだけを想っていてほしい。
アタシだけを愛していてほしいの』

孝は、一美(かずみ)の想いを誠実に守った。

美雪は、姉と孝が結婚できなかったのは自分が居たせいだ、自分がいつまでも姉に甘えていたせいだと思っていた。

孝に泣きながら謝っていた美雪。

『一美(かずみ)の気持ちを尊重したのは俺の気持ちなんだから、美雪は自分を責めるな』

孝の言葉に慰められたあの遠い日…。



『お姉ちゃん、孝さんは今でも独身のままなんだよ?これからここに来るから、好きな人が居るなら結婚しなよって言ってあげないと…孝兄ちゃんの心には、まだお姉ちゃんが居るみたいだかさ…。
毎年アタシの誕生日にはプレゼントとシーフードピザ持ってここに来てくれるんだよ。
優しい人だよねー…』




スマホの呼び出し音に目が覚める美雪。

『あらら…いつの間にか寝ちゃってた…』

スマホを手に取り、孝からの着信を確認して通話ボタンを押した。

『独身の孝兄ちゃん、モシモシ』

『だからー、独身の、をつけるのはやめれ!それより、今日は美雪の誕生日に何人友達来るんだ?Lサイズのピザ2つで足りるか?』

『いつもの親友3人だから余裕で足りるよー。ケーキも買ってきてくれるから2つで十分だよ』

『なんだ美雪、今年も男っ気無いのか。まぁ、その方が兄貴役の俺としては変な虫が美雪に付かないから、安心っちゃー安心だけどな。
好きな人ができたら俺に言うんだぞ。妹の彼氏としてどうなのか俺が見極めてやる』


一美と同じ歳の孝は、美雪が小学校の時から知っていた。

高校生の時から孝と一美は付き合っていて、妹思いだった一美は孝とデートの時にも、両親が居なかったので妹の美雪を連れてきていた。

孝も別に嫌がるわけでもなく、すぐに美雪とも仲良くなった。

あの時から、一美が居なくなった今でも、こうして誕生日に来てくれたり、色々な相談にも乗ってくれる孝は美雪にとって本当の兄のような存在だった。

孝自身も、美雪を妹のように可愛がっていた。



『じゃあ、シーフードピザのデカイやつ一つともう一つ適当に選んで買っていくな』

『ありがとう、孝兄ちゃん』


そう言って美雪は電話を切り、時計を見てから窓の外を見ると黒い雲が拡がりつつあった。

『一雨来そう…』

美雪がポツリと言った途端、空から大粒の雨が落ちてきた。

遠くの空は明るいので、この雨ははすぐ止むだろうと、美雪は思った。

美雪の思い通りに20分ほどで雨は止んだ。

黒い雨雲は瞬く間に消えて、夕暮れ前の空に黒い雲と入れ替わるように綿のような白い雲が所々に浮かんでいた。

その時、ドアチャイムが鳴った。

『ピザの宅配でーす』

孝の声が聞こえた。

美雪は玄関のドアを開けて、孝を招き入れた。

『ほれっ、シーフードピザ一枚と、あれこれ混ざったピザ一枚』

『ありがとう、孝兄ちゃん。いまお茶いれるね』

一美の面影が見える美雪の笑顔に抱き締めたくなる衝動に駈られる孝。

髪の長さ、艶と質感、あどけない笑顔は当時の一美とよく似ていた。

これが、俺が次の心の拠り所を見つけられない理由なのかもしれないな…

そんなことを思いながら、孝は美雪から目を反らしキッチンの横にある小さなテーブルの椅子に腰かけて窓の外に目を向けた。

さっきのどしゃ降りが嘘のような青い空が見えていて、うっすらと虹が掛かっていた。

孝は椅子から立ち上がり窓のところへ行った。

うっすらと見えていた虹が、次第に色濃くなっていった。

『美雪、来てごらん』

孝は美雪の顔を見て手招きした。

『なぁに?どしたの?』

孝の指差す方を見た美雪は声をあげた。

『わぁー!綺麗な虹だー』

『あぁ、久しぶりだ…こんな綺麗な虹を見るの…。なぁ…美雪。虹には虹の女神が居るって知ってるか?』

『知ってるよ。虹の女神イリス。虹を渡って空にメッセージを届けてくれるらしいよ』

『もしかしたら…その話、美雪も一美から聞いたんじゃないのか?俺も同じこと言おうとしてた…』

『そうだよー。小さいとき、お姉ちゃんに教えてもらってた。虹の女神に伝えてほしいことをお願いすると伝えてほしい人に伝えてくれるんだって』

『こんな綺麗な虹なら、お願いも聞いてもらえそうだな』

『お願いしとこうよ、お兄ちゃん』

『…』

『…』

二人は窓を開けて虹に向かって手を合わせた。

『孝兄ちゃん、何お願いしたの?』

『一美に伝言お願いしたよ。美雪の事は心配するなって。妹思いだったからな…あいつ…美雪は?何お願いしたんだ?』

『アタシもお姉ちゃんにお願いしたんだよ…』

『何てお願いしたんだよ!言ってみろ!ほれっ』

『いや~、内容は言えませぬ。お兄ちゃんのこと、とだけ言っておこう…』

『えー、俺の事なら尚更気になるじゃねーかよ!言えっ!言って楽になれ!』

『嫌ですぅー』

舌をペロッと出してマグカップにスティックのカフェオレを入れてポットのお湯を注いで孝に渡した。

もう一度窓から虹を見たら既に色が薄くなっていた。

その時、アパートの前にタクシーが1台停まって、美雪の親友3人が降りてきた。

窓から親友に声をかける美雪。

見上げる美雪の親友が美雪に応えて手を振っていた。

『じゃ、俺はこれで帰るよ。あっ、これ誕生日プレゼント』

『えっ、帰っちゃうの?一緒にピザとケーキ食べていってよ』

『女ばかりの席におっさんがいたら、話したいことも話せなくなっちゃうだろ?』

その時、玄関のチャイムが鳴った。

美雪がドアを開けると部屋の中が一気に賑やかになった。

入れ違いに孝は一言二言、美雪の友達に声をかけて部屋を出ていった。

夕暮れと共に、美雪たちの尽きないお喋りが始まり、夜の帳は降りていった。



おしまい…

【虹の彼方に】コニー・タルボット

どんなに哀しいことがあっても、いずれは日常の想い出となって幸せの中の一つの大切な記憶となる…

長文、最後まで読んでいただきありがとうございました。
この作品は、私のオリジナル短編小説として書いた【一年間だけの約束】のスピンオフとして書きました。



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移り行く日々の徒然に…


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  1. 雨上がりの空に…(11/01)