リネージュ2 二次創作長編小説 14
処刑場の監視者

サラが血盟軍に助けられた頃。
クラウディ、ガルシニア一行は夜の処刑場の最上部に差し掛かった所で身を潜めていた。
処刑場は三層になっていて、一番下の最下部、中段部、最上部に分かれていた。
下部、中段部を抜けて、最上部の階段を上がりきった所で処刑場の魑魅魍魎の塊、処刑場をさ迷い続けるモンスター、身長が2メーターを優に越える処刑場の監視者と言われる者に行く手を塞がれていたのだった。
『奴が警備兵の言っていた監視者か…でけぇなぁ』
ガルシニアが誰に言うでもなく呟いた。
『あと少しで処刑場を抜けられるとこなのに…』ローズも呟いた。
『だけど、ただのモンスターだろ?体は中身スカスカの骸骨だし。俺と兄貴とクラゥディでダメージ与えればバラバラになっちまうんじゃない?』
ガルシニアの弟ラシュが言った。
『そう簡単にできりゃいいけどな…』
ただならぬ監視者の気を感じたクラウディの言葉にガルシニアも頷いた。
『うむ、中々手強いかもしれんな…しかしこのままでは前に進めない。ここでハミルのパーティーリコール使っても、ここはまだディオン領地だから又ディオンにもどっちまうからなぁ。…いっちょやってみるか?』
ガルシニアが皆の顔を見た。
皆が頷いた。そしてセシルとアンナはガルシニア、ラシュ、シルバーレンジャーのマリマル、そしてドワーフのメリーに攻撃力、防御力、回避能力をメインに味方の能力を上げる強化魔法をかけ始めた。
ダークエルフ、スペルハウラーのクラウディには魔法攻撃の魔力アップのエンパワーをセシルにかけてもらい、魔力が数倍上がっていった。
それぞれが能力上昇で気合い十分の攻撃体制に入った。
クラウディ、マリマルは後方からの攻撃となり、更に後方からはビショップのローズがモンスターとの接近戦を余儀なくされるガルシニアとラシュ、メリーに体力回復の為のヒールを務める事になった。
そしてダークエルフ、シリエンエルダーのセシルとアンナはモンスターの力を弱体化させる支援魔法に専念するという事になり、それぞれが自分の役割を決めた。
『じゃあ私が先にスタンアタックかけてみるよ』メリーが言った。
『いや、俺とラシュでしかける。メリーは俺たちの攻撃の後にスタンをかけてみてくれ』
ガルシニアが言うと、『大丈夫よ。私は貴方達より体力あるし、敵の攻撃を避けるのも上手いのよ』
くすっと笑いながらメリーが言った。
スタンアタック(斧による強力な攻撃で敵を一時的に気を失わせる)が決まれば少しの間はモンスターは何もできず棒立ちになるだけで、一方的に攻撃できるのだった。
『俺のスリープで眠らせたらどうかな?』クラゥディが割って入った。
『いえ、駄目よ。スリープは必ず効くとは限らないでしょ?メイジのあなたにターゲットがいったらまずいわ』
メリーが言うとガルシニアも頷いた。
『メリー、ほんとにだいじょぶか?』
ラシュが念を押すようにメリーに聞いた。
『大丈夫、スタン決めてくるよ』
メリーは皆の顔を見ながら言った。
『メリーが攻撃したら俺たちもすぐにいくからな』ガルシニアが言うとメリーは頷いて監視者を見た。
ドワーフのメリーは攻撃力こそ強くはないが、女ながら体力があり打たれ強いという特徴がある。
更に敵の攻撃をかなりの確率で回避できる特殊能力を身に付けていた。
その上、ローズの敵の攻撃をかなりの確率で回避できる強化魔法をかけてもらい、メリーの回避能力は飛躍的に上がった。
そしてメリーは立ち上がり、大きく深呼吸をしてから処刑場の監視者というモンスターに立ち向かっていった。
すぐあとにガルシニアとラシュが走り始めた。
監視者は向かってくるメリーに気付くと、大きな剣を振り上げてメリーに襲いかかってきた。
そして小さなメリーと大きなモンスターがぶつかり合った。大きな体の監視者は思っていた以上に動きが素早く、惜しくもメリーのスタンアタックは外れてしまった。
直ぐさま、モンスター監視者の剣がメリーに襲いかかった。
メリーはシールドでモンスターの攻撃を受け止めたが、モンスターの力は想像以上に強くメリーは弾き飛ばされた。
そして、転がるメリーを横目で見ながらガルシニアとラシュが監視者に突進していった。
ビショップのローズは体勢を立て直しモンスターに向かっていくメリーにヒールをかけた。
そこから一斉攻撃が始まった。
シルバーレンジャーのマリマルは矢継ぎ早に、しかし正確にモンスターの頭目掛けて矢を放った。
クラウディも自分の持ちうる魔力を最大に引き出しハリケーンを撃ち放ち、モンスターにダメージを与え続けていた。
セシルとアンナはモンスターを弱体化するべく魔法をかけていた。
エルダーのハミルも接近戦に加わりつつローズの補助としてガルシニア、ラシュ、メリーにヒールをかけていた。
時折アンナとセシルの魔法がきいているのか、モンスターの動きが鈍くなるときがあるのをガルシニアは見逃さなかった。
しかし、多少動きが鈍くなるとはいえ力は衰えていないようで、モンスター監視者は執拗にメリーだけを狙って剣を振りかざしていた。
それから十数分、モンスターの攻撃を一人で受けているメリーは、さすがに疲れが見えてきた。
攻撃を始めた時はモンスターの剣を華麗なステップとシールドで回避していたが、モンスター監視者の力で弾き飛ばされることが多くなってきた。
モンスター監視者はガルシニアとラシュの攻撃には目もくれず、メリーだけを狙っていた。
ローズとハミルはメリーだけに立て続けにヒールをかけた。
メリーは傷だらけになっていた。
シールドは監視者の剣で抉られ防具は所々裂けていた。
それでもローズとハミルのヒールに助けられながら攻撃と回避を繰り返していた。
ガルシニアとラシュはモンスターのターゲットを、なんとか自分達の方へ向けたかった。
『まずい…このままではメリーが危ない。何とかしなければ…』
ガルシニアはメリーの前に割り込もうとした。
その時だった。
メリーは足が縺れてバランスを失った。
そこへモンスターの剣が横殴りに飛んできた。
メリーは辛うじてシールドを盾にしたが、大きく弾き飛ばされた。
メリーの手から武器とシールドが離れクラウディの足元に転がってきた。
『メリー!!』
アンナが叫んだ。
クラゥディはすぐに弾き飛ばされたメリーに駆け寄った。
執拗にメリーだけを狙ってくるモンスター監視者からメリーを守ろうと監視者の前に立ちはだかり、モンスター監視者に渾身の一撃、魔法攻撃ハリケーンを放った。
これが通常攻撃の数倍のダメージを与えるクリティカルヒットとなり、監視者はよろめいた。
しかし、おおきなダメージを喰らった監視者だが、すぐさま体制を立て直し倒れたメリーに更に襲い掛かってきた。
監視者は目の前のクラウディの存在を無視するかの様に、倒れているメリーに剣を振りかざした。
シールドを持たないクラウディは魔法武器の長い杖でモンスターの剣を受け止めようとした。
『このやろう!!』
メリーに振り下ろされたモンスターの剣がクラゥディの杖とぶつかり合った。
だがクラウディの力では、やはり力不足だった。
しかし、モンスターの剣はクラゥディの杖のおかげで、メリーの数十センチ横の地面に食い込んだ。
クラゥディは一瞬よろめいたが、近接魔法攻撃オーラバーンを連発した。モンスターは再びよろめいた。
『ハミル!メリーを別の場所へ!』
ガルシニアが叫んだ。
ハミルは倒れているメリーを抱き
上げモンスターから離れた。
モンスター監視者はガルシニア、ラシュ、クラゥディ、マリマルに集中攻撃を受けながらも、離れていくメリーを追っていこうとした。
その時、モンスター監視者の腕をガルシニアの剣が渾身の一撃で断ち切った。
監視者は、この世の者とは思えぬ声をあげた。
そして監視者は、今度はガルシニアに剣を持つ残った片腕だけで襲い掛かっていった。
ガルシニアは後ろに跳びモンスターと間合いを取った。
『よしっ!やっとこっちに向いたか!』
ガルシニアが言うと同時に地面を蹴ってモンスターに突進した。
ガルシニアに向かって付き出してくるモンスターの剣をサムライロングソードで払い除け、モンスターの背後に回り込んだ。
ガルシニアは跳躍して、モンスターの残った片腕を狙い切りつけたが、モンスターは素早く踵を返しガルシニアの剣を避けた。
モンスターの剣が横殴りに飛んできた。
ガルシニアは自らの二刀で受け止めたが、モンスターの力は相変わらず強くガルシニアは弾き飛ばされた。
その間、ラシュは監視者の背後に回り込んで攻撃を続けていた。
後ろに転がりながらも、ガルシニアは直ぐに体制を立て直し激しく地面を蹴りモンスターの片腕目掛けて突進した。
その時モンスター監視者がバランスを崩して倒れた。
目標を失ったガルシニアの剣は激しく空を切った。
その空を斬った剣の勢いは、鎌鼬[かまいたち]の如く風を作りモンスターにこそ当たらなかったが、空を切り裂く風により地面を深く抉っていた。
ガルシニアは思いがけない自分の剣の威力を、視界の隅で見ていた。
そしてガルシニアは振り返り、倒れたモンスターを見た。
モンスター監視者は、倒れたままバタバタと剣を振り回していた。
モンスターの体から、少し離れたところにモンスターの足が落ちていた。
先ほどのガルシニアの剣が監視者の腕を狙って空を切り裂いた風が鋭い刃の鎌鼬となり、倒れた監視者の足を切断したのだった。
『やったか!』
ガルシニアが叫んだ。
『足を切り落としてやったぜ!』
ラシュがガルシニアに向かって高々と剣を上げた。
ガルシニアはラシュに笑顔で応えた。
片手片足を失ったモンスターは、それでも這いずりながらガルシニアに近付いていった。
ガルシニアは気を高めて、そのエネルギーを剣に集中させた。
さっき、モンスターの腕を狙った時の様に、這いずってくるモンスターに力一杯剣を振り下ろした。
空気を切り裂く音がしただけだった。
もう一度気を高めてから、今度はほんの少し力を抜いて、しかし力強く剣を振り下ろしてみた。
空を切り裂く音と共に地面が抉れていき、倒れているモンスターの剣を持つ腕が切断された。
両手片足を奪われたモンスターはガルシニアの目の前で這いずることさえできなくなり、ただ、もがきながら不気味な声を出しているだけだった。
ラシュがモンスターに近寄っていった。
『兄貴、こいつは痛みを感じるのかな?』
『どうだろうな…こいつは骨だけだし、亡者の塊だからな。血が出てるわけじゃないし、痛みなんか感じないんじゃないか?』
もがきながらも、ガルシニアを見据えているモンスターの顔を見下ろしながらガルシニアが言った。
モンスターの頭には無数の矢の跡があり、何本かは目の中や口の中にマリマルの放った矢が突き刺さっていた。
『手足を無くしては、もう人を襲うこともできまい。このままにしておくか…』
ラシュは、そう言ってモンスターから目を反らしメリーを探した。
少し離れた所でローズとハミルがメリーの傷の手当てをしていた。
ガルシニアとラシュもメリーの傍へ駆け寄った。
アンナがメリーに水を飲ませていた。
メリーは傷だらけだったが意識はしっかりしていた。
『ごめんね…スタン決められなかった。想像以上の動きの早さで、あいつの攻撃避ける事しかできなかった…』
『メリー、大丈夫か?すまなかった。やっぱり俺とラシュでしかければよかった…』
倒れているメリーの横に膝まずいてガルシニアが言った。
『ガルシニア、気にしないで。私が自分で行くって言ったんだから…』
メリーが苦痛で顔を歪めながら言った。
『じゃ、皆ちょっと離れてて。メリーにリザレクションかけるから』
ハミルが、皆にメリーから離れるように促した。
ハミルの回復魔法リザレクションは自分の持つ生体エネルギーを負傷した者に分け与え、回復させる魔法で、エルフ、エルダーのみが使える魔法だった。
負傷した者を回復させる事ができるが、その代償として、自らのエネルギーを大きく消費する事になりリザレクションを使った後は暫くの間、全ての魔法が使えなくなるのだった。
『俺がこの魔法を使うと暫くの間、一切の魔法が使えなくなる。勿論ヒールもパーティーリコールも使えなくなる。そこは理解してほしい。ローズ、この先、又モンスターと戦闘になるような事があったらヒール頼むぜ』
『解ってる。任せて』
ローズか静かに応えた。
ローズの返事を聞いて、ハミルは、リザレクションの詠唱を始めた。
傷ついて座り込んでいるメリーが、みるみる白い光に包まれていきメリーが見えなくなるほどになった。
更に、一際大きな光が広がり徐々に消えていった。そして、メリーの傷付いた身体は癒された。
ハミルの顔にはうっすらと汗が浮かんでいた。
ゆっくりとメリーが立ち上がった。
『ありがとう、ハミル。痛みが少なくなったよ』
にっこり笑いながらメリーが言うと
『完全に回復させるのは無理だからなぁ。これで勘弁してくれ』
ハミルは照れ臭そうに言った。
『さすがエルダー。聖なる魔法だ。ハミル、俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう』
ガルシニアが言うと
『何だよ、やめてくれよ。よそよそしいぞ。これはパーティーに入っているエルダーの役目なんだからさ』
ハミルは、またまた照れ臭そうに言いながら何気なく倒れたまま、もがいているモンスターを見た。
ハミルの視界に信じられない光景が飛び込んできた。
切断されたはずのモンスターの腕が元に戻っていたのだった。
更にガルシニアが切断した筈のンスターの足も元に戻ろうとしているところだった。
『おい!まずいぞ!奴が復活しようとしてる!!』
皆が一斉にモンスターを見ると、切断されていた足が意思を持っているかのようにズルズルと動いていて、今まさに元に戻ろうとしていた。
『くそっ!奴は再生できるのか!』
ラシュが言うと同時に地面を激しく蹴り、モンスターに向かっていった。
『ラシュ!左に回り込め!』
ガルシニアの言葉にラシュはモンスターの左に回り込んでいった。クラゥディとマリマルも攻撃を始めた。
そしてガルシニアは剣に気を溜めてモンスターの頭に狙いを付け剣を斜めに振り下ろした。
空気を斬る鋭い音がした。
ラシュは、頭の上を何かが高速で通り過ぎるのを感じた。
そして、ラシュの目の前でモンスターの片腕が落ちたのだった。
『ん!?』
ラシュはモンスターの腕が落ちるのを目の前で見ていた。
更にマリマルの矢とクラゥディのハリケーンが、再生されかかったモンスターの足を吹き飛ばした。
ラシュの目の前でモンスターは、再度崩れ落ちた。
それを見ていたラシュが『なんだよ…俺の出番無しかよ』
皆に聞こえるように言いながら、トボトボと戻ってきた。
『ガル、今何やったんだ?』
クラゥディが不思議な顔をしてガルシニアに聞いた。
『へへへ、偶然に新しい技ができたんだ』
ガルシニアは笑いながらクラゥディに親指を立てて見せた。
『新しい技?俺の頭の上を何かが通りすぎて行ったやつ?』
戻ってきたラシュがクラウディより先に口を開いた。
『多分それだろう。ガルシニアが剣を振り下ろした時に、すごい音がしたよな?』
クラゥディが目を丸くしてセシルの顔を見た。
『うん。見えない何かが飛んでいったみたいだったわ。そしたらモンスターの腕か切れたのよ』
ラシュの顔を見ながらセシルが言った。
『モンスターの切れた腕は綺麗に切断されてたぜ。さっきも倒れたモンスターの腕が切れたのを見たけど兄貴がやったの?』
『あぁ、俺がやった。さっき奴と戦ってる時偶然にできたんだ』
それを聞いたラシュが突然甘えるような口調で『なんだょ…てっきり俺が切り落としたと思ってたのに…兄貴ぃ~、俺にも教えてくれよぉ~、そのスキル…』
と、ガルシニアに言った。
『何甘えた声出してんだよ!ぜんぜん可愛くねーんだよ!気持ちわりーな!…まぁ、どうしても教えてほしーってんなら俺の前で膝ま着いて、どうか教えてください、尊敬するお兄様って言ったら教えてやらん事もないがな』
そう言ってガルシニアは高笑いをした。
皆の顔に笑顔が戻った。『けちっ!』
ラシュが笑いながら言って、倒れているモンスターの所へ行き切断された片足を引き摺りながら持ってきた。
『兄貴、教えてくれなきゃこの足をあいつにくっ付けて元に戻すぞ』
にやっと笑いながらラシュが言った。
『わかったわかった。後で教えてやるよ。実はまだ完全にマスターしてる訳じゃ無いからさ。今だって、ほんとは頭を狙ったんだが、外れた。お前に当たるんじゃないかと思って、一瞬ヒヤッとしたぜ。まぁ、これから二人で勉強して完璧なスキルにしようぜ』
ガルシニアが言うとラシュは、またニヤっと笑い頷きながらモンスターの足を引き摺りながら階段の方へ歩いていき、そのモンスターの足を階段の手摺の所から遥か下の処刑場の下段層に投げ落とした。
それを見ていたガルシニアとクラゥディも、それぞれ切断されたモンスターの両腕を同じように下段層に投げ落とした。
最後にガルシニアは、もう一度倒れてもがいているモンスターに新しいスキルを使ってみた。
剣に気を溜めて二刀を、片方ずつ交互にクロスして振り下ろしてみた。凄まじい風を斬る音がしたかと思うと剣の放った風が地面に二本の線を抉りながらモンスターまで一直線に延びていき、見事にモンスターの体か三つに切断されたのだった。
『これで暫くは再生できないだろう』
皆が目を丸くして驚いていた。
しかし、二刀を使って成功するとは思っていなかったガルシニア本人が一番驚いていたのだった。
クラゥディがモンスターの傍に歩み寄っていった。
切断された部分は鋭利な刃物で切られたように、綺麗に切断されていた。
しかし切断されても尚、それぞれがまだ奇妙に動いていた。
また再生しようとしてるのだろう。
クラゥディは、そう思った。
そして、モンスターの傍らに落ちている光る物に目が止まった。
拾い上げてみると見たこともないネックレスだった。
恐らく魔法防御の為のアクセサリーだろう。
さっきの闘いで、クラゥディはモンスターの魔法抵抗力の強さを感じていた。
魑魅魍魎の呪いが込められているであろうネックレスは、かなりの魔法抵抗力がありそうで何とも複雑怪奇な形をしていた。
クラゥディは、そのネックレスを遠くに放り投げた。
そしてモンスターから少し離れてモンスター監視者の頭にハリケーンを放った。
モンスターの頭は粉々に吹き飛んだ。
魔法防御のアクセサリーが無いと、呆気ないもんだな。
そう思いながらクラゥディは変わり果てたモンスターを見下ろしていた。
今まで再び再生しようとして奇妙に動いていたモンスターの身体は動きが止まっていた。
『終わったな』
それを見ていたガルシニアが呟いた。
クラゥディが皆の元に戻ってきてメリーの顔を見た。
『メリー、歩けるか?』
『もう大丈夫よ。ハミルのおかげで大分楽になったよ』
メリーは、にっこり笑いながら言った。
『じゃ、出発だな』
ガルシニアが皆に出発を促した。
ローズ、アンナ、セシルを囲むように皆は、又歩き始めた。
『早く処刑場を抜けちまおう。後は何処かで野宿して明後日の朝にはギランに着けると思う』
皆の顔を見ながら言った。
『あぁ~水浴びでもしたいね~』
アンナがセシル、ローズ、マリマル、メリーを見ながら言うと
『そういえば、何処かに湖があるって言ってたよね?』
セシルがクラゥディに聞いてきた。
『あぁ…確かガルシニアが言ってたな。ガル、湖って何処にあるんだ?』
『あぁ、湖か…コース変更して処刑場に来ちゃったからなぁ。ディオンとギランの中間辺りにあるんだが…確か、ヌルカのアジト入り口に近いところだったはずだが…もう通り過ぎたでございます』
苦笑いしながら女性陣に頭を下げた。
そしてガルシニアは、セシルにわざと聞こえるように大きな声でクラゥディに話しかけた。
『すまん!クラゥディ!お前が楽しみにしていた女性陣達の裸を見られなくなっちまったな。お前楽しみにしてたのになぁ。若いエルフの女の子もいるのになぁ。お前の楽しみ奪っちゃって、ほんとすまん』
ガルシニアは悪戯っぽく笑いながらクラゥディを見て言った。
『ばかやろ!ガル!俺がいつそんなこと言った?誤解されるだろ!』
アタフタしながらガルシニアに怒鳴り付けてから恐る恐るセシルに目を向けた。
セシルは軽蔑の眼差しを夫であるクラゥディに向けていた。
『ふぅ~ん…古女房よりピチピチの若い娘がいぃんだ…。そうなんだ……マリマル、私達の中にもモンスターがいるから気を付けてね。何かあったら私に言って。私が退治してあげるから 』
セシルがマリマルに言うと、ローズも口を開いた。
『マリマル、モンスターは一人だけじゃないからね。厳つい兄弟のモンスターもいるみたいだからね。兄弟で襲ってくるかも知れないから気を付けてね。その時は私もセシルと一緒にモンスターを退治するから』
ガルシニアを指差しながらローズはマリマルに言った。
『ローズ姉さん。真面目な僕を柄の悪い兄と一緒にしないで下さい』
後ろの方からラシュが、いかにも真面目そうに言った。
『後ろにも気を付けてね』
ローズがラシュも指差しながらマリマルに言った。
『わはは!ガル、ラシュ!お前らも俺と同罪だな』
大袈裟に笑いながらクラゥディがガルシニアに言い放った。
『同罪って事はガルシニアの言ったこと認めてるわけ?』
間髪入れずにセシルが食い付いてきた。
『い、いゃ、そういう訳じゃ…』
クラゥディがしどろもどろになった。
『やーい、怒られてやんの』
ガルシニアはクラゥディを指差しながら小憎らしい子供の様に言った。
『ガル!私にも怒って欲しいの?』
ローズがガルシニアに釘を刺した。
『すんません…』
ガルシニアが大人しくなった。
マリマルがクスクスと笑い出した。
『男の人って大きくなっても子供みたいね。なんか可愛いね。…なんか結婚て楽しそう』
マリマルが言うと
『まいったなぁ~。マリマル。俺に惚れても駄目だぜ。俺はローズと結婚するから俺に惚れても幸せになれないぜっ』
ガルシニアが、わざと申し訳なさそうにマリマルを見て言った。
それを聞いたアンナとメリーが驚いた。
『えぇっ!ローズ、ガルシニアと結婚するの?』
アンナが驚いた顔でローズの顔を見た。
『もぅっ!何でここで言うのよ!この仕事が終わったら皆に言うつもりだったのに』
ローズはガルシニアの腕をつねった。
『あちゃ~、すまんすまん。つい勢いで言っちゃったよ』
『やっぱりね~。そうなるんじゃないかと思ってたよ。ローズ、ガル、おめでと』
セシルが、にっこり笑いながら言った。
『じゃ、この仕事終わったらパーティーだね』
メリーが楽しそうに言った。
照れ臭そうにガルシニアが口を開いた。
『三年前死んだソニアと約束してたんだ。あいつは病気で自分の死を覚悟したとき、もし再婚したくなるような事があったら相手はローズじゃなきゃ駄目よ。ローズ以外は許さないからねって言ったんだ。勿論ローズの気持ち次第だけどね。だけど…もしそうなるとしても私が死んでから二年間は再婚しないで。そう言ってたよ。その二年間の意味は分からなかったけどね。ローズはソニアと仲良かったからな。あいつが逝ってからはローズが、よく息子のアドロに飯作ってくれたり家の掃除をしてくれたりしたんだ』
ガルシニアは歩きながら淡々と語り続けた。
皆は黙って聞いていた。
『それで?』
アンナが続きを聞きたくて、話の続きを催促するようにガルシニアの次の言葉を待っていた。
『ローズ自信、そして俺も最初はお互い結婚しようなんて、これっぽっちも思って無かったと思うんだ』
ガルシニアはローズの顔をちらっと見た。
俯いたままだった。
『俺は…ソニアを無くした。その哀しみをローズが癒してくれたんだ。勿論、最初は俺もローズと再婚しようなんて考えてなかった。ただ、俺はソニアとの約束は守ってきた。あいつと約束した二年間。あいつの事だけを想い、死んでも尚、愛し続けてきた。でも、身近にいる女と長く付き合えば情も湧いてくる。それはローズも同じ想いだったと思うんだ。だけど、俺もローズも結婚の事は一言も口にしなかった』
皆は歩きながら静かに聞いていた。
少しの沈黙が訪れた。
『二年間だけ…か…』
ローズが呟いた。
『二年だけじゃなく、ずっと…これからもずっとソニアのこと想っていてあげて。ずっと愛していてあげて。きっとソニアの言ってた二年ってそのことだと思う。二年のあいだだけは自分だけを愛して欲しかったんだと思う。その中で、ほんの少しだけ私の事想ってくれればいいから。ソニアの事はいつまでも忘れないでいてあげて』
ローズは目に涙を溜めながら、微笑んで言った。
『分かってる。俺は、あいつのこと忘れることはできない。と言うより忘れちゃいけないと思っている。だけど…今の俺の中ではソニアもローズも同じ位置にいるんだ』
いつものガルシニアらしからぬ、少し照れたようにしていた。
そんなガルシニアを見ていたクラゥディが口を開いた。
『ガル。今だけじゃなく、これからもその位置をずっとキープしていてあげろよ。ローズの為にも』
クラゥディの言葉に女達は、皆賛同した。
『あぁ。わかってる』
ガルシニアは前を向いたまま返事をした。
あいつ堪えてんな。
クラゥディは何時もと違うガルシニアを見てそう思った。
そんなガルシニアを見たクラゥディは、ガルシニアの中では、まだソニアの存在が大きいんだな、と思った。
『なんか湿っぽくなっちまったなぁ』
ガルシニアが大きな声で言った。
『帰ったら盛大に兄貴とローズ姉さんのパーティーだな。姉さん兄貴をよろしく!』
ラシュが言った。
ローズが照れ笑いで返事をした。
『そうだ。マリマルも来ないか?なぁ、兄貴。いいよな?』
ラシュがマリマルに声をかけた。
『勿論。マリマルさえよければ大歓迎だ』
ガルシニアが笑顔で応えた。
『皆さん、ありがとう。行けるかどうかわからないけど、ギランで用事を済ませる事が出来たら必ず、お二人の祝福に行きます』
マリマルは笑顔で応えた後、一瞬だけ寂しげな表情を見せた。
すぐ隣にいたセシルは、そんなマリマルの顔を見て何かを感じ取っていた。
『ありがとう、マリマル。嬉しいわ』
ローズがマリマルを見て言った時、ローズもマリマルの寂しげな表情を見た。
が、マリマルはすぐに笑顔で取り繕った。
『マリマル?今、ギランで用事を済ませることが出来たら、って言ってたけど…何か大切な用事なの?』
マリマルが一瞬見せた暗い影を見たセシルが問いかけた。
『そう言えば…何でギランに行くのか聞いてなかったな?まさか戦争に行く訳じゃないよな?』
ハミルもマリマルに聞いてきた。
『…』
しかし、マリマルは沈黙していた。
『その用事ってのはマリマル一人で出来る事なのか?ギランは、もうすぐ戦争状態に入るはずだ。事と次第によっちゃ手を貸すぜ』
ガルシニアもマリマルを見て、何か事情があるな、と感じ取った。
マリマルは皆の顔を見た。
皆がマリマルの言葉を待っていた。
『皆さん。ありがとう…』
ほんの少し間を置いて、マリマルが話し始めた。
『実は、私ギラン城へ行きます』
『おぃおぃ、ギラン城って…本当に戦争に行くつもりなのか?』
ラシュがビックリした様子で聞き返した。
『いえ。戦争に行くんじゃないの。人を探しに行くんです』
マリマルは応えた。
『この前の攻城戦でギランはインナドリル軍の宣戦布告も無く、不意討ちを食らって壊滅状態って聞いたぞ。そして、奴等はギランを手に入れた。そのインナドリル軍のやりかたに納得のいかない血盟軍が、インナドリル城とギラン城に宣戦布告をして、今まさに沢山の血盟軍隊が集結しているそうだ。インナドリル軍も同盟軍やら傭兵を集結しているらしい。ギランの街へ行くならまだしも城へ行くのは危険だぞ』
ガルシニアが言うと
『危険なのは承知しています。…だけど…どうしても連れ戻したい人がいるんです』
その言葉で、ガルシニアはマリマルの意思は揺るぎがたいものなのだと思った。
『その人は、あなたにとって大切な人なの?』
アンナが聞いた。
『はい。私の兄です。兄は、攻城戦専門に戦うプロの傭兵です。先日のインナドリル城とギラン城の戦争がありましたよね?そしてギラン城を手に入れたインナドリル軍がギラン城防衛の為に傭兵を集めていると聞いた兄は傭兵として高額な報酬に目が眩み、インナドリル軍に協力しようとしています。そして兄は、もうギランに着いている頃だと思います』
マリマルは話を続けた。
『インナドリルの卑劣なやりかたに、元々のギラン同盟軍や血盟軍がギランを取り戻すべく終結していると、ガルシニアさんも言ってました。だから…今までに無い壮絶な闘いになりそうな気がして…』
マリマルは、そこまで言うと俯いたまま黙ってしまった。
クラゥディ始めガルシニアもラシュも他の皆もマリマルの気持ちを察していた。
『どうだろう、皆。マリマルの兄貴はプロの傭兵って事だけど…見付けたところでマリマルの気持ちに応じるかな?』
ガルシニアが口を開いた。
『まぁ、とにかくマリマルの兄貴を見付けてから説得してみないと解らんだろうな。とにかくマリマルと俺とガル、ラシュ、ハミルで探してみよう』
クラゥディはマリマルの顔を見た。
『ダメですダメです!そんなこと!私の兄の事で皆さんを危険に晒すことなんて出来ません!』
マリマルは、慌てて首を横に振った。
『心配するな、マリマル。俺達だって攻城戦は何度も経験している。それにガルとラシュがいれば、まず心配することは無いさ。なぁ、ガル!』
クラゥディはラシュ、ガルシニアとハミルの顔を見た。
『まぁ、俺とラシュが思う存分暴れる事が出来るのもハミルとクラゥディの支援があるからこそ出来ることだ。だから、もし誰かと闘う事になったとしても、俺達四人いれば大丈夫だ。マリマル、心配するな。』
ガルシニアもマリマルに心配しないよう告げた。
『でも…あなた方は胞子の海へ行く目的があるのに……皆さんの仕事に差し支える事になってしまいます』
マリマルは申し訳なさそうに言った。
『1日や2日遅れたってたいして影響無いわよ』
セシルが言うとアンナ、ローズ、メリーも頷いた。
『ギランに着く頃にはハミルの魔法も回復しているはずだからヒールも強化魔法もハミルがいれば大丈夫。私達はギランの街で待ってるわ。私達がいると足手まといになるかも知れないからね。その代わり、街でも貴方のお兄さんの事探してみるわ。ドワーフのメリーの情報収集能力は凄いのよ』
ローズはニッコリ笑いながら言った。
『マリマルも知ってると思うけど、物作りが得意な私達ドワーフは露店商をしてる人達がとても沢山いるの。その人達の情報網はすごいのよ。その人達から色々聞いてみるよ』
メリーはマリマルの顔を見て言った。
『皆さん、本当にありがとうございます。本当は…私一人で兄を探しに行くのが、とても不安でした。私には父も母もいません。二人とも私が小さい頃、ディオン城に攻めてきた大規模な血盟軍との激しい戦闘で戦死しました。それからは兄が、私の親代わりとなって傭兵となり私を育ててくれたのです。今回のギラン防衛隊としての仕事は、私は大反対しました。だけど…兄は私の反対を押し切って書き置きを残してギランへ行ってしまったのです。たった一人の家族を失いたくなくて、独りでギランへ向かおうとした時に貴殿方に出会いました。あなた方に会ったことで、ほんの少しの間だけでも兄を失うかも知れないという不安から逃れることができました。皆さんの気持ちに甘えるような形になってしまう事を、お許し下さい』
マリマルは、そう言うと皆に向かって丁寧に頭を下げた。
『マリマル、そんなに気にするな』
ガルシニアが言うと他の皆も笑顔で頷いた。
『そうと決まれば少しでも早くギランへ行って戦争が始まる前にマリマルの兄貴を見付けなきゃな。処刑場を抜けたらストライダーに頑張ってもらおう』
皆は少しペースを上げて歩き出した。
続く…

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